第3章 人工乾燥装置
乾燥の三大要素
乾燥にはまず熱
木材を乾燥させるためにまず必要なものは熱です。洗濯物のように遠心力を使ったり、しぼることである程度の脱水ができればいいのですが、木材にこれらを応用することは多くの場合難しい状態にあります。そこで必然的に木材乾燥の主流は、熱により水分を蒸発させる方法になります。また、熱は蒸発だけでなく、内部での水分移動速度や木材の性質変化(良くも悪くも)にも影響を及ぼすので、熱、水、木材との関係をよく理解することは、より良い乾燥のために重要になります。
ムラをなくす風
適度な風が吹く天気のいい日を洗濯日和といいます。風が洗濯物の周囲の湿った空気を取り去り、乾いた暖かい空気を運んできてくれるからです。しかし、洗濯物でさえ風の通り道を考えずに蜜に干してしまうと、乾くのが遅くなるうえ、場所によって乾き具合も違ってきます。木材乾燥でも風通しが悪かったり、風が弱かったり、風が全くあたらない箇所があれば、乾燥ムラの原因になります。木材乾燥での風は、乾燥を迅速に進めるためと、乾燥ムラを低減するために重要な働きをしています。
湿度も重要
木材乾燥が一般の乾燥と大きく異なるのが、比較的高い湿度の中で乾燥させていくことです。チップや単板であれば乾いた空気で一気に乾燥させても問題ないのですが、第1章でも書いたように木材は乾燥途中で、狂いや変形、割れなどの損傷が生じることがあります。このような損傷を起こさないように、木材に無理がかからないように、しかし、できるだけ迅速に乾燥させていくために、適切な温度と湿度を設定することが重要になるのです。
ポイント24 | 熱は水分の蒸発、内部水分の移動速度や物性にも影響する。 |
ポイント25 | 風は乾燥速度の促進と乾燥ムラの低減に役立つ。 |
ポイント26 | 適切な温湿度で迅速で損傷の少ない乾燥を行う。 |
乾燥機の種類
加熱方式
人工乾燥装置には加熱方式や乾燥温度、送風方式の違いによりそれぞれ呼び名がつけられています。しかし、これらは複雑に組み合わされて使用されているため、系統的には示し難い状態にあります。
そこでまず、加熱方式や熱源の違いで整理してみます。
最も一般的な加熱空気中で木材を温め乾燥させる方法として、①蒸気式、②温水式、③電気式、④除湿式(ヒートポンプ式)、⑤太陽熱式(その他天然熱として地熱、温泉熱利用もある)、⑥燃焼ガス式(燻煙式)などがあります。現在では汎用性があり、比較的経済的であることから、蒸気式が最もよく利用されています。
特殊な方式としては、高周波やマイクロ波を木材に印加して加熱する⑦誘電加熱式、赤外線の輻射熱を利用した⑧赤外線加熱式や熱板で木材を挟んで接触加熱する⑨熱板加熱式があり、さらには高温にした液体状あるいは蒸気状の薬剤を利用した⑩薬品乾燥法など様々な方法があり、これらを複合した加熱方式もあります。
乾燥温度
除湿式乾燥機には、使用する冷媒の種類のため室温を40℃程度までしか上げられない低温除湿式と、60℃程度まで上げられる高温除湿式がある。また最近では、除湿式乾燥機に電熱や遠赤外線を併用し、80℃程度まで上げられるタイプも発売されている。
現在の日本で一般的な乾燥機といえば、蒸気式の40~90℃(100℃以下)で使用できる中温蒸気式乾燥機です。また100~130℃あたりで使用されるタイプを高温乾燥機、160℃程度まで使用できるものは超高温乾燥機とも呼ばれている。
ポイント27 | 加熱方式では蒸気式が汎用性があり最も一般的。 |
ポイント28 | 蒸気式では100℃以上仕様を高温乾燥機と認識される。 |
乾燥機の種類2
送風方式
室内の空気を自然の対流にまかせて循環させる自然対流式もあるが、現在では送風機を設置し、桟積み間を強制的に加熱空気が循環するようにした強制循環式が主流になっている。
さらに強制循環式には、乾燥室の外部に送風機(シロッコファン)と加熱管とを設け、ダクトによって加熱空気を乾燥室へ循環させる外部送風式と、プロペラ型の送風機を乾燥室内に置き風を循環させる内部送風式(通称 IF 型:Internal-fan type)とに分類される。
内部送風式は、日本だけでなく世界で最も広く利用されている方式で、プロペラとモーターとの結合方式ではモーター直結式、ショートシャフト式やロングシャフト式がある。また、送風機の取り付け位置では、天井部や地下に設置したものや、桟積みの側面に設置するサイドファン方式として、桟積み内の空気循環を水平方向に行わせる水平循環方式と、桟積みを上下に2分して上下方向に循環させる上下循環方式がある。
さらに、風速が少ないと風下側の乾燥が遅れることがあるため、乾燥途中で送風方向を変化できる両循環方式が主流となっているが、燃焼ガスを使った乾燥室や外部送風式では、高温空気の取り入れ口が固定されていることから、常に一定方向から送風する方循環方式になっているものが多い。
ポイント29 | 内部送風・両循環方式が最も一般的である。 |
ポイント30 | サイドファンには水平循環と上下循環方式がある。 |
蒸気式乾燥機1
一般的な蒸気乾燥機
蒸気式乾燥機は水蒸気を熱源とする熱気乾燥装置で、広葉樹・針葉樹・寸法を問わず応用できるため、現在最も普及しています。
蒸気を乾燥機内の熱交換器(一般的にはステンレスパイプにアルミのフィンが巻かれているエルフィンヒーター)に通して、乾燥室内の空気を加熱し、さらに送風機により加熱された空気を循環させて乾燥する方法で、湿度の調節は生蒸気の噴射と室内外の空気を交換する吸排気によって行われるのが一般的です。
熱源の蒸気は、一般的に油焚き蒸気ボイラーによって、自動的に作られ、乾燥装置に用いられます。また、乾燥機に用いられている免許無しで使用できるボイラーの最高圧力が 10kg/cm2(蒸気温度約 180℃)ですので、万一の異常の際もこれ以上には室温が上昇しないため、火災などの危険がほとんどない装置でもあります。
加熱に効率的な蒸気
1gの水を1℃だけ高めるには1cal(4.19J(ジュール))の熱量が必要です。ですので0℃の水1gを100℃の水(熱湯)にするには、100cal(419J)の熱が必要になります。さらに100℃の水を加熱すると蒸気になります。この時100℃の1gの水を100℃の蒸気に変えるのに、539cal(2257J)の熱が使われます。つまり、0℃の水1gを100℃の蒸気にするには、100+539=639cal(2676J)の熱が必要で、100℃の蒸気には639calの熱が蓄えられたことになります。
逆に、100℃の蒸気1gが100℃の水になると、539calの熱が放出されることになります。生活の中でも、蒸気が例えば冷たいガラスにあたった瞬間に水滴になることを経験したことがあると思います。ここが重要で、蒸気は冷たいものに触れた瞬間に大きな熱を放出するのです。ですので、蒸気を通したヒーターは放熱量が大きく、非常に効率の良い加熱をすることができるのです。温水式加熱よりも蒸気式が効率がいいことも、このためなのです。またコストの点でも、電気式加熱に比べ、重油焚き蒸気ボイラーは2倍以上も安くなる計算になります。
ポイント31 | 蒸気式乾燥機は、応用範囲が広く最も普及している。 |
ポイント32 | 100℃の1gの蒸気は、瞬時に539calの熱を放出し、熱湯になる |
ポイント33 | 蒸気式過熱は熱効率が良くしかも経済的 |
蒸気式乾燥機2
蒸気ボイラ
現在、蒸気式乾燥機に一般的に使われている蒸気ボイラーは小型貫流ボイラーと呼ばれるものです。蒸気の発生が速く、取り扱い資格も不要であるメリットがありますが、水の管理が悪いと寿命が短くなる欠点があります。
蒸気ボイラーは、蒸気を圧縮して高圧(7~10kg/cm2)にし、一度に大容量の蒸気を送ることができます。この時、高圧にされた蒸気はさらに高い温度になっており、乾燥機には通常ゲージ圧で3~7kg/cm2に減圧された、温度約140~170℃の蒸気を送り込みます。ですので、100℃以上の高温乾燥も蒸気式乾燥機で可能になるのです。
最近では、木屑焚き蒸気ボイラーと組み合わせて乾燥機が使用されることが増えてきました。バックアップ用に油焚ボイラーも併用して用いられることが一般的です。
またちなみに、ゲージ圧とは、大気圧は1kg/cm2ですが、この圧力を0とした圧力計の値で、例えばゲージ圧3kg/cm2とは、実際は4kg/cm2なのです。
エルフィンヒーター
ステンレスパイプの周りに巻きつけられているアルミフィン(羽)の密度や表面積が大きいものほど放熱効率に優れたヒーターといえます。ヒーターは蒸気の入口側にあたる操作室には通常自動弁が取り付けら蒸気の開閉を行っており、出口側には蒸気トラップが取り付けられており、蒸気を堰き止め、熱を放出した蒸気が凝縮してできたお湯だけを排出するようになっています。長すぎるヒーターは乾燥室内で温度ムラを作りやすくなるため、数メートルごとにユニットにされたヒーターを適切に配置される必要があります。
吸排気
蒸気式乾燥機では乾燥室内の高湿度の空気と水分量の少ない外気とを入れ替えることで、乾燥室内の排湿が行われるのが一般的です。この外気との交換は、自然吸排気方式と呼ばれる乾燥機の循環ファンの風圧を利用して吸排気筒のダンパーを開閉して行われる方式が世界的に用いられています。緩やかな湿球温度制御ができ騒音も少ないことがメリットいえます。
一方、日本では強制給排気方式と呼ばれるシロッコファンによる外気との交換を行う方法を採用するメーカーが増えています。スピーディーで熱ロスも少ない換気を行えるメリットもありますが、風量調節が悪いと大きな湿球温度の変動が生じ、また、騒音も問題になる場合もあります。
ポイント34 | 貫流ボイラーが良く使われ、高圧蒸気でさらに効率アップ。 |
ポイント35 | ヒータのフィンの密度と配管方式が熱環境を決める。 |
ポイント36 | 自然吸排気方式と強制給排気方式がある。 |